お昼寝日和

         〜寵猫抄シリーズより
                ( お侍 拍手お礼の六十八 )
 


相変わらずに、どこか不安定なお天気が続き。
木枯らしも吹いたし、冷めたい雨も降った、
七五三を過ぎて、北海道では雪も降ったというに。
小春日和というには暑いほどの陽気もやって来ての、
東日本では何と25度以上という“夏日”を記録しもしたそうな。
それでも木々は色づいて、秋もいよいよ深まって来たし。
それのみならず、暦のほうもずんと押し迫っての、

 「早いもんですよね。
  今年もあと1カ月と10日ですよ、勘兵衛様。」

執筆のほうでも“年末調整”に入っているにもかかわらず、
そっちはかなりの幅を見積もった上での、前倒しな代物なので。
言いつかってもさほどに
“年末が近い”という感触はなかったものが。
あちこちで
“クリスマスイルミネーションへの点灯式が”
なんてなニュースが扱われ、
新しい年のカレンダーや手帳の
ご準備は済みましたか?なんてな広告を見るに至って。
あ、いっけないと、慌ててしまったらしい敏腕秘書殿。
お茶を運んで来たそのまま、
座へと着きつつそんな風に口にするものだから、

 「そうは言うが、
  それなりの準備はいろいろと進めておるのだろうに。」

各社の新年号への原稿の、
草案も下書きもあらかた済ませておいでという、
余裕の島谷せんせえ。
こちら様も、リビングのコタツへ長い足を突っ込んでいて。
お膝へ小さなメインクーンちゃんを抱えておいでのまま、
その天板に出されてあった
大きめの備忘録ノートをパラリとめくる。
塩ビのカバーつき、雑記帳仕様のスケジュール帳で、
買い物の予定や支払いの確認などなどが
記されているのだが。
年賀状やお歳暮の予定には、
横棒での“済み”という書き込みがされており。

 「頼母からも、
年末年始の宿泊へお誘いがあったらしいしの。」
 「ええ。そちらは例年のことですから。」

そうと応じつつ、
お茶を淹れる間、
離れていた彼を待っておいでだったクロちゃんを、
再びお膝へ抱えた金髪の秘書殿が、
ふふと小さく微笑って見せる。
この姿で、なのに勘兵衛以上に、
礼節礼儀・ご挨拶などなど、それは密に心得ておいでで。
それへ加えて…サイドボードの上に置かれた、
小物入れにしている籐のカゴには、
進物用の菓子箱を思わせる化粧箱に仕舞われた、
毎年恒例の“もう幾つ寝るとお正月”版の
アドベントカレンダーが、
あと少しという仕上げの段階へかかっておいで。
近くて遠い里に住むお友達のキュウゾウくんへの、
ある意味でのクリスマスプレゼント
兼お年玉のようなもの。
久蔵もところどころでお手伝いをし、
且つ“遊べ〜”というお邪魔もしつつ、
1カ月分の小窓そえぞれへ、
かわいらしい贈り物を詰めているところで。
この秋はあんまりお越しにならなんだ、
小さなお兄さんへと想いを馳せ、
あちらさまもお忙しいのでしょうね、
そうさな雪が深い里だというし、何かと準備も多かろうと。
こそりと言葉を交わす二人だったのは、

 「…………。」
 「よく寝て。」

勘兵衛のお膝を占拠中の仔猫様が、
くうくうと気持ち良さそうにお昼寝中だから。
彼らには幼い和子に見えている小さな久蔵坊や。
以前は、昼の間はそりゃあ元気よく駈け回りの、
様々な遊びや悪戯に興じていたものが。
クロちゃんというお仲間が出来たことで、
猫らしいサイクルの過ごしようを身につけつつあるものか。
よくお昼寝をするようにもなっており。

 「このごろでは、クロちゃん以上に寝ておりませぬか?」
 「そうだったかの?」

頬の産毛をぽあぽあと光らせて、
まぶた降ろした幼いお顔。
ふくふくとした印象の甘やかな中、
軽く合わさった口元の緋色の、
何とも頼りなくも可憐で愛らしいことか。
愛らしさでは、こちらも同様、
びろうどのような毛並みについ惹かれ、
手元の仔猫をそおと撫でれば。
にぃと糸のような細い声で鳴くのが、
得も言われぬ響きで心の表から染み入って。
懐ろの奥底をつんとくすぐる。
その甘やかさへ ふふと、
ついつい微笑んでしまったようで。

 「…………。」
 「……なんですよう。////////」

他愛ないことへいちいち微笑うなんて、
子供のようとでも言いたいのですか…と。
ああそうだ、
かつての私なら、
そこまで食ってかかっていたかも知れぬ。
可愛げのない子を装って、
隙なんてないぞと気を張って。
だって仕方がないじゃない。

 「なに、何とも眼福だのと思うてな。」

柔らかくたわめられた目許や、
精悍さは残しつつも愛想の乗った口元が、
暖かで頼もしい微笑いようを醸し出す。
ムキにならずにあっさりと受け流す許容の深さや、
言い過ぎたかなと思っても、
ああ叱られなんだ大丈夫と安堵させてくださる優しさが。
すっかり凭れていいんだよと思わせるほどの、
ゆったりした頼りがいを下さって。
今でこそ、何て素敵なと素直にひたれる同じこと。
かつての自分は、実は実は。
なんて大人であらしゃるかと、
胸元が暖かくなったと同時、
自分は全然追いつけてはないのだと思い知らされ、
そこへと微かな嫉妬も抱えてた。

 “…ホント、子供だったんだなぁ。”

つまらない負けん気が邪魔をして、
こんなにもお素敵な笑顔、
途中で苦笑に塗り替えさせちゃあ、
曇らさせていたんだ勿体ないと。
こちらを見やり、柔らかに微笑んでおいでの御主様を、
ややおずおずと見つめ返しておれば、


  「………………みゃっ、にゃう。」

   はい?


空耳かと思ったほど、
唐突でしかも短いお声がしたもんだから。
七郎次なぞ、
思わずキョロキョロッと周囲を見回してしまったが。

 「いや、探すことでもなかろうよ。」

おいおいと、
今度はやや呆れた勘兵衛が言うのも無理はなく。
にゃあと鳴く子は二人しかいない。
片やのクロは七郎次のすぐ手元においでなのだから、

 「……久蔵、ですか?」
 「らしいぞ。」

ちょいと背条を延ばし、
天板を挟んだ向こう、勘兵衛の手元を何とか見やれば、
そこにいる久蔵はだが、
まだまだ真ん丸な身を丸めて眠り続けておいでであって。

 「……猫って夢を観るんでしょうかね。」

そうとしか思えぬ態度だったと、
口元押さえてキョトンとする七郎次だったのへ、

 「そりゃあ見るんじゃないのか?」

何も異次元へ行く訳でなし、昼間拾った情報をだな…と、
夢というものの仕組みを説明しかかる勘兵衛であり。
判らないことは勘兵衛様に訊こうという七郎次の習慣は、
いつの間にやら 勘兵衛を、
門外漢なはずの分野にまで
博識なせんせえにしてしまったらしく。
くうすうと眠り続ける子猫さんをよそに、
小声での講義が始まって。
晩秋の、されど
暖かい陽光がふんだんに降りそそぐリビングは、
それは静かな昼下がりのひとときを迎えておいでだった。





   〜Fine〜  2011.11.20.


  *なかなか秋めきが長続きしない今年の秋ですね。
   関東では26℃のところもあったとか。
   こっちも陽向では汗がにじむ いい陽気でしたよ。
   いっそのこと暖かい冬だったら
節電も容易いんじゃないでしょか。

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